シングルセルRNA-seq
生体におけるあらゆる細胞種とその機能を同定することが可能となるscRNA-seq解析法は、生物の仕組みを深く理解する上で必須の技術です。scRNA-seqの既存技術としては、テンプレートスイッチング法をベースとする技術が広く使用されています。しかしながら、これらの手法では細胞組成の正確な評価、テンプレートスイッチ法での遺伝子検出感度などにおいて問題がありました。
TAS-Seq法 (Terminator-assisted solid-phase cDNA amplification and sequencing) は、鋳型に依存しない酵素であるターミナルトランスフェラーゼ(TdT)と、 ddNTPターミネータターミネーターによるTdT反応の確率論的停止機構、マイクロウェル/磁気ビーズベースの細胞単離技術を組み合わせることで、既存の手法に比べて、シーケンスの量の多寡に関わらず、より多くの遺伝子や変動性の高い遺伝子(highly-variable genes)を高感度に検出できることが示されました。
組織中の細胞組成の正確な検出
より高い遺伝子検出感度
よりロバストな
細胞間コミュニケーションの検出
よりロバストな
成長因子・IL発現等の検出
マウス肺細胞におけるフローサイトメーターと各種手法の細胞検出精度の比較
フローサイトメーターのデータと比較してTAS-seqではフローサイトメーターとの相関が高く、正確な細胞組成データを取得可能です。
その他の手法の10X v2データはマクロファージを過大に検出しており、線維芽細胞画分を過小に検出していました。 (赤枠を参照)
Smart-seq2 データは内皮細胞と単球を過大に検出しており、肺胞マクロファージが失われていました。 (緑枠を参照)
Shichino S. et al. Communications Biology volume 5, Article number: 602 (2022)
マウス肺の細胞間コミュニケーション検出
TAS-seq2の開発
TAS-Seqの反応系を最適化し、検出感度がさらに向上したTAS-Seq2を開発致しました。
TAS-Seq2を用いたマウス肝臓検体由来細胞核解析例
*10X 核調整キット、anti-nuclear pore complex hashtagsを利用 約20000-30000 reads / nucleus
TAS-Seq2により、細胞核の測定においても他社手法と比較して高感度に遺伝子を検出
10X v3.1: 公開済みマウス肝臓検体データ(SRX14774301, SRX14774300)
マルチプレックス解析
(Universal Surface Biotinylation : USB法)
マルチプレックス解析とは、異なるサンプル由来の細胞をDNAバーコードが付いたTag抗体やストレプトアビジンを用いることで、複数サンプルを同時に解析可能とする技術です。Cell hashingと呼ばれます。弊社では、特定の細胞表面タンパク質に依存しない普遍的な標識技術、Universal Surface Biotinylation (USB) を採用しております。
Universal Surface Biotinylation: a simple, versatile and cost-effective sample multiplexing method for single-cell RNA-seq analysis
TCRレパトア解析
高感度、非バイアス
mRNAからcDNAを合成し、共通プライマーでTCR遺伝子を増幅することで、cDNAをスタートとして可変領域に対するmultiple primerで増幅する系に比較して高感度、非バイアスな解析が可能です。また、休止期のT細胞はTCR遺伝子発現量が低く (数コピー/細胞程度)、レパトア解析には検出感度が求められますが、IGT社の増幅法は既存技術の中でも特に感度の優れた方法を採用しています。
腫瘍浸潤T細胞の重複クローン解析
がん組織でのCD4/CD8レパトア解析:
TCRレパトア解析ではCD4+ T細胞 とCD8+ T細胞を分画して解析することが極めて重要です。一方、がんの生検組織などからのT細胞サブセットの精製は技術的、時間的に大きな負担です。IGT社では、患者の末梢血CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞のTCRレパトアに基づき、CD4またはCD8に属するクローンのリストを作成し、未分画腫瘍組織のTCRレパトアに存在するクローンがCD4とCD8いずれかを判定する重複クローン解析技術を開発しました (特許申請中) 。
この重複クローン解析技術により、腫瘍反応性CD4+およびCD8+ T細胞クローンの治療前後または経時的な変化を容易に解析することが可能になりました。
* 末梢血単核球からのCD4、CD8T細胞の分画オプションもございます。
他社従来法末梢血TCR解析
腫瘍関連T細胞は末梢血の一部にしか存在しないので
評価が難しい
IGT社末梢血・腫瘍重複TCR解析
どのような施設でも、診断で採取した末梢血、腫瘍生検を
IGT社に送ると特異的な抗腫瘍T細胞応答を評価できる
従来の腫瘍浸潤T細胞レパトア解析
簡便だが免疫学的な解釈ができない
免疫学的な解釈を可能にするために、時間と特殊技術が必要
腫瘍・末梢血重複クローン解析技術による
汎用性の高い腫瘍浸潤CD4/CD8T細胞レパトア解析
シングルTCRレパトア解析
scRNA-seqとTCRレパトア解析を統合し、個々のT細胞について遺伝子発現情報とcloneの再構成に必要なTCRα/βペアの配列を同時に解析できます。各クローンの性質と頻度に基づき、TCR遺伝子療法などに有望なクローンの絞り込みが可能です。
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この解析で実施されるシングルセルRNA-seqは、BD社Immune Response Panelを用いたターゲットシーケンシングです。オプションで制御性T細胞、疲弊T細胞などに関わる遺伝子の追加も可能です
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最大2万-3万細胞/解析が可能、マウスおよびヒト生体由来TCRα/βのペアリング効率は20%-80%程度 (細胞の活性化状態に依存) です
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BD社Abseq、BioLegend社TotalSeqなどを用いたタンパク質との同時解析も可能です
TAS-Seq2はBD社WTA kitと比較して、約3倍の遺伝子を検出
TAS-Seq2はBD社WTA kitと比較してT細胞受容体ペアリング率が高い
B16F10皮下移植腫瘍マウスモデルにおける、anti-PD-L1処置時の腫瘍浸潤CD8⁺T細胞の解析例 (WTA)
約50,000 reads/cell
代表的なCD8+ T細胞マーカー遺伝子の発現パターン
BD WTA
TAS-Seq2で同定されたクラスター
0: terminally exhausted, 1: effector, 2: proliferated, 3: exhausted progenitor-1, 4: exhausted progenitor-2, 5: naïve-like, 6: stem-like, 7: dying cell
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TAS-Seq2は、BD社WTA kitでは同定困難なCD8+T細胞サブセットを同定できる
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TAS-Seq2では、CD8+ T細胞の機能制御に関わる遺伝子を、よりdrop-out率が低く明瞭に検出できる